ポイント
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可視光で動作する有機電気光学ポリマー光変調器を開発
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従来の近赤外光用光変調器よりも大幅に短波長化、高効率化(小型・低電圧)を実現
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可視光で動作する光変調器は、立体ディスプレイやスマートグラスなど、次世代表示デバイスへの応用が期待
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)未来ICT研究所は、可視光用の高効率な有機電気光学ポリマー(以下、EOポリマー)光変調器を開発しました。従来のEOポリマー光変調器は、近赤外光(波長1,550 nmなど)で動作できますが、可視光(波長380 nm〜780 nm)では吸収損失が大きいため、光変調器として利用することができませんでした。NICTでは、可視光での吸収損失が小さく、光変調に必要な電気光学係数を持つEOポリマーを開発し、これを用いて微細加工技術を駆使して光変調器を作製し、波長640 nmの可視光(赤色)での動作実証に成功しました。実証した可視光用EOポリマー光変調器は、従来の近赤外光用EOポリマー光変調器よりも小型・低電圧で駆動でき、高効率です。
今回開発した可視光用EOポリマー光変調器は、立体ディスプレイやスマートグラスなど、次世代表示デバイスへの応用が期待されます。
なお、本成果は、2022年5月19日(木)に、科学雑誌「Optics Express」に掲載されました。
背景
情報量の増加に伴い、高速・大容量な光通信技術の開発が求められています。NICTでは、LN光変調器など従来技術よりも高速で低消費電力なEOポリマーを使った光変調器の開発に取り組んでいます。光変調器は、電気信号を光信号に変換する、情報通信などに欠かせないキーデバイスです。LN光変調器と比較して、EOポリマーを使った光変調器は、光通信に使われている近赤外光でしか利用できないという課題がありました。
また、EOポリマー光変調器を応用させると、光ビームを高速に走査することができます。立体ディスプレイなど表示デバイスに使用するためには、可視光で利用できる必要があります。
今回の成果
本研究では、近赤外光よりも短い波長である可視光で、吸収損失が小さく、高い電気光学係数を持つEOポリマーの開発に成功しました。これは、NICTが持つ正確な測定技術と、長年蓄積してきた膨大な分子構造ライブラリに基づく分子設計により実現したものです。可視光での吸収を抑えるようにEO分子の構造を短く曲がりにくく設計したことで、従来のEOポリマーよりも20,000分の1以下に吸収を小さくすることができ、可視光で利用できるようになりました。
この新規EOポリマーを用いて、マッハ・ツェンダー型干渉計構造を設計して、微細加工プロセスにより光変調器を作製しました(図1参照)。可視光で動作するためには、従来の近赤外光での光変調器よりも導波路のサイズを小さくする必要があり、光が伝搬する導波路の幅が比較的大きくてもシングルモードが担保されるリッジ型導波路(図2参照)を採用しました。これにより、精度の高い加工が必要であるものの、従来の微細加工プロセスを大幅に改良することなく本成果を達成できました。
今回開発した光変調器に電気信号を加えて、出射光の変調動作を評価しました。その結果、波長640 nm(赤色)で、性能指数は 0.52 V・cmでした。これは、従来のEOポリマー光変調器の動作波長である近赤外光よりも、大幅に短い波長であり、性能指数は3分の1以下と非常に高効率(小型・低電圧)です(図3参照)。
今後の展望
可視光で高効率な光変調器が実現できることを示した本研究成果は、光制御技術や情報表示技術にイノベーションを起こす先駆的な成果です。光変調器は、光の位相を制御することができ、これを応用させると光ビームを成形・走査する光フェーズドアレイを作製することができます。可視光用光フェーズドアレイは、立体ディスプレイなどの表示デバイスへの応用展開が可能になり、小型軽量で高効率な表示デバイスは、スマートグラスなどの次世代ウェアラブル端末への搭載が期待できます。さらに、可視光で動作できると、安価なシリコン系の光検出器が使用でき、システム全体のコストダウンにつながります。
今後は、開発した可視光用EOポリマーを用いて光フェーズドアレイを作製し、動作実証を行い、表示デバイス実現に取り組みます。さらに、赤色以外の緑色・青色用のEOポリマーの開発を行い、立体ディスプレイなどへの応用展開を図ります。
論文情報
論文名: Superiorly low half-wave voltage electro-optic polymer modulator for visible photonics
掲載誌: Optics Express
DOI: 10.1364/OE.456271
著者: Shun Kamada, Rieko Ueda, Chiyumi Yamada, Kouichi Tanaka, Toshiki Yamada, Akira Otomo