世界初の国際標準小児数値人体モデルを無償公開

〜小児を対象とした電波吸収量などの数値シミュレーションに利用可能〜
2023年1月31日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 体形及び解剖学的構造が国際的な標準値に合致した世界初の小児数値人体モデルを開発
  • 小児を対象とした電波吸収量や車両衝突時の人体損傷の解析などの数値シミュレーションに利用可能
  • 非営利目的の利用に対しては2023年2月1日(水)から無償で公開を開始
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 徳田 英幸)は、世界に先駆けて、体形及び解剖学的構造が国際的な標準値に合致した国際標準小児数値人体モデル(1歳児、5歳児、10歳児)を開発し、2023年2月1日(水)から、非営利目的の利用に対して無償公開を開始します。このモデルは、小児を対象とした電波吸収量や車両衝突時の人体損傷の解析などの様々な数値シミュレーションに利用することが可能であり、小児の安全性評価や診断・治療技術の向上など、様々な分野への貢献が期待されます。

背景

近年、医療診断技術の進歩や計算機性能の向上により、人体を忠実に模擬した高精細数値人体モデルを用いた電磁界シミュレーションにおいて、人体の電波吸収量を精密に推定することが可能になってきました。NICTは、日本人の平均的な体形及び解剖学的構造を有した成人男女や妊娠女性の数値人体モデルを開発し、これらのモデルを公開することで、これまでに、国内外約300件の研究などにご利用いただいています。
一方、これまでの小児の数値人体モデルでは、その多くが成人の数値人体モデルの簡易縮小版や特定の個人の解剖学的データを用いていたために、体形や臓器が小児の標準値から逸脱している等の問題がありました。そこで、NICTでは、個人差に影響されない一般性の高い数値シミュレーションを可能にするために、国際的な標準体形及び解剖学的構造を有する国際標準小児数値人体モデルの開発に取り組んできました。

国際標準小児数値人体モデルの概要

図1
人体を構成する組織の種類により色分けして表示している。左図は皮膚を透明化した3次元表示画像、右図は断面図を表す。

図1 国際標準小児数値人体モデル (左右両図とも、左から1歳児、5歳児、10歳児の数値モデル)
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今回公開する国際標準小児数値人体モデルは、人体の解剖学的な構造を多数の細かなブロック(1辺が2 mmの立方体)で表現した小児(1歳児、5歳児、10歳児)のモデルです(図1参照)。本モデルを構成する各ブロックには約50の異なる組織臓器に対応するID番号が付与されており、体形と組織重量は、国際放射線防護委員会(ICRP)が推奨する小児の体形と臓器重量の参照値に合致するように調整しています。
この人体モデルを構成する各ブロックに対応した組織や臓器の電気定数を設定することで、電波が小児に吸収される様子を計算することができます。NICTは、これらの国際標準小児数値人体モデルを用いて、携帯電話基地局等からの電波吸収量についての詳細な数値シミュレーションを行い、その成果をまとめた論文は2020年に発行された国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の国際ガイドラインの根拠として引用されています。
また、電気定数の代わりに他の物性値を設定することで、様々な分野での数値シミュレーション研究・技術開発にこれらのモデルを利用することが可能となります。これまでに公開してきた成人の数値人体モデルは、車両衝突時の人体損傷の解析や放射線治療における被ばく線量最適化等の分野でも活用されており、国際標準小児数値人体モデルについても様々な分野で活用できます。

モデルの公開

国際標準小児数値人体モデルの公開は、2023年2月1日(水)から開始します。利用条件や申請方法等については、下記のWebページをご覧ください。
また、今回の無償公開は非営利目的の利用を対象としていますが、今後、営利目的の利用に対する有償公開についても検討しています。ご興味がある方は、以下の本件に関する問合せ先までご連絡ください。
 
なお、国際標準小児数値人体モデルの研究開発の一部は、総務省委託研究「Beyond 5G/6G等の多様化する新たな無線システムに対応した電波ばく露評価技術に関する研究」(JPMI10001)により行われました。

関連する過去のNICTの報道発表等

用語解説

数値人体モデル

人体(組織・臓器)の形状を、微小な要素(本モデルでは一辺が2 mmの立方体ブロック)の集合体として表現したもの。各微小ブロックには、その部位に対応する組織・臓器名(ID番号)が与えられており、その組織・臓器に対応する電気定数を与えることで電磁界解析数値シミュレーションに用いることができる。また、各組織・臓器に他の物性値を与えることで、放射線の被ばく量評価や自動車衝突解析など、幅広い研究分野に活用できる。

数値人体モデル図
図2 数値人体モデルのイメージ


国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection; ICRP)

放射線防護に関する勧告を行う非営利の国際学術組織であり、ICRPは、人体(成人男女、小児)の各臓器等の重量、身体及び各組織の化学組成、生理学的データ等の基準となるデータを報告書にまとめている。この報告書に記載されている臓器重量等の基準データに合致したモデルが、放射線防護だけでなく電波防護の研究分野においても国際的な標準モデルとして利用されている。


組織や臓器の電気定数

人体を構成する組織や臓器毎に電気定数(誘電率と導電率)は異なることから、数値人体モデルを用いて電波の人体吸収量を高精度に計算するためには、数値人体モデルを構成する各ブロックに対応した組織・臓器の電気定数が必要となる。また、組織・臓器の電気定数は周波数によって異なる。


国際標準小児数値人体モデルを用いた研究の国際非電離放射線防護委員会の国際ガイドラインへの反映
国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection; ICNIRP)は、世界保健機関(WHO)が公式に認める電磁界へのばく露を制限する国際ガイドラインの作成及び改定を行っている。2020年に改定された国際ガイドラインにおけるばく露制限の根拠として、NICTが2019年9月に発表した国際標準小児数値人体モデルを用いた研究に関する下記の論文が引用されている。
(詳細: https://www.nict.go.jp/info/topics/2020/04/20-2.html

掲載誌: IEEE Access
DOI: 10.1109/ACCESS.2019.2940736
URL: https://ieeexplore.ieee.org/document/8834784
論文名: Development of Voxel Models Adjusted to ICRP Reference Children and Their Whole-Body Averaged SARs for Whole-Body Exposure to Electromagnetic Fields From 10 MHz to 6 GHz
著者: Tomoaki Nagaoka, Soichi Watanabe


人体の物性値

人体を構成する組織や臓器に固有の値のこと。例えば、数値人体モデルを用いた車両衝突時の人体傷害解析には、各組織・臓器の物性値としてヤング率、ポアソン比等が必要となり、放射線被ばく解析には各組織・臓器の物性値として放射線吸収係数等が必要となる。

本件に関する問合せ先

国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所 電磁波標準研究センター
電磁環境研究室

長岡 智明

広報(取材受付)

広報部 報道室