柳田 敏雄(やなぎだ としお)脳情報通信融合研究センター研究センター長大学院博士課程中退後、大阪大学教授、NICT主管研究員を経て、2013年から現 職。「ゆらぎ」を基礎とした生命のしくみを研究。2013年文化功労者。工学博士。図1 脳のことばとxRで生成するサーバー世界:現実世界の時空間の制約を超えて、世界のどこの誰とでも以心伝心のコミュニケーションができる開かれた世界脳情報(脳ことば)とxRで生成する超現実世界今のCOVID-19によるパンデミックや災害による社会活動の制限は深刻な問題となっています。この問題は今後も起こり得ることであり、この事態に適切に対処し、日常の継続性を保つため、抜本的な社会システムの変革が求められています。ここで期待されているのが、生活・仕事・交流等私たちの様々な営みを現実世界の制約なく行えるサイバー世界です。■提案する世界:以心伝心のコミュニケーション最近の人工知能(AI)や5Gなどの情報通信技術(ICT)の進展は目覚ましく、このようなサイバー世界が現実のものとなりつつあります。しかし、ここで懸念は、脳に最先端のITでむやみに大量の情報を送っても、脳は疲弊するばかりで効率よく情報を受容できないのではないかということです。脳が何を知りたいのかに絞る、すなわち、情報の量を増やすのではなく、質を上げることが必要です。脳情報、言い換えれば“脳のことば”を理解し、これを使った以心伝心のコミュニケーションの実現です。私たちは、脳のことばとxRで生成する超現実世界、サイバー世界を提案します(図1)。脳のことばをどのように獲得するのでしょうか。近年ヒトの脳活動から、脳情報すなわち脳ことばを読み解く研究が大きく進化しています。我々のセンター(CiNet)でも中心課題として取り組んでいます。視覚に関する研究成果の一部を紹介します。動画を見せたときの脳活動から、被験者の脳が見ている画像を再現したり、知覚している意味内容、情動内容、そしてさらに記憶、推定、意図といった高次の認知を読み解いたりすることが部分的ですができています(図2)。■脳ことばの読み解きを目指す私たちはこの研究を軸として、視覚だ昨図2 脳ことばの解読例コロナ禍に生かすNICTの研究・SEEDsHow NICT R&D Can Underpin COVID-19 Aected SocietyNICT NEWS 2020 No.610
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