図3 脳ことばとxRによるサイバー世界の構築図4 新しいサイバー世界がもたらす拡張認知革命けでなく多種多様な入力情報に対しての脳ことばの読み解きを目指しています。脳活動の大規模データベースを構築し、多様な情報の脳活動への表現・表出様式を求めます。脳活動の計測は主にfMRI(機能的MRI)を使います。しかし、この方法ではMRIの中で人間の動きが拘束されるので、実生活環境での脳活動が計測できないという問題があります。そこで、我々はxRを使って、仮想的な環境で脳活動を大規模に計測する計画です。また、非拘束状態で計測ができるEEG(脳波)や病院の協力を得てECoG(皮質脳波)で脳活動を測定するなど、マルチモーダルな脳活動計測も行います。脳のことばは個人個人で異なります。それゆえ、年齢、男女、生活環境、趣味、職業、DNA型、文化、国、人種などに分けて脳活動計測を行い、できる限り没個性にならない脳のことばを求める必要があります。どこまでが共通でどこからが個性なのかを解明することは、個性や人格の起源とも関係する非常に興味深い課題でもあります。個性まで含めた脳のことばを、計測が大変な脳活動だけから求めるのは膨大な人材、時間、そして研究資金を必要とします。SNS上で大量に飛び交う情報にも脳のことばが端々に現れているはずです。SNS情報の解析と脳活動計測を組み合わせて、没個性にならない脳のことばを求める取組も行っています。NICTにあるSNS情報解析の強力なセンターと協力して脳ことばの研究開発を大きく進展させることも考えています。世界の脳科学とICTの融合研究開発の動向を見てみると、NeuraLinkやFaceBookといった企業が乗り出しています。脳科学を取り込んだICTは今後世界の潮流になるでしょう。■生成的超現実社会の実現へ次に、脳のことばとxRを使って、どのようにサイバー世界を構築していくのでしょうか。脳のことばをその都度脳活動を計測して求めるのでは、現実的ではありません。我々の計画では、没個性にならない脳のことばを大規模に取得しデータベース化し、それを基に脳のことばを翻訳しサイバー世界で使えるようにコンパイルします。すなわち、脳活動を計測しなくても、多種多様な情報を人間の脳ではなくコンピュータに入力すれば、脳のことばが得られるようにするのです。そして、脳のことばをネットワークに乗せて新しいサイバー世界(生成的超現実社会)の構築を目指します。脳のことばは倫理的に慎重に扱うことが必須です。また、脳のことばを使う社会はどうあるべきかという課題もあります。この問題は、大阪大学の社会技術共創研究センター(ELSIセンター)と協同して慎重に進めていく計画です(図3)。脳のことばとxRで生成するサイバー世界は、どんな社会変革をもたらすことが期待できるでしょうか。人間は、遺伝子の進化により言語や創造力を得るといった認知革命が起こり、他の動物とは根本的に異なる社会を発展させてきました。少し大おお袈げ裟さですが、我々が目指す新しいサイバー世界では、技術の進化により拡張認知革命が起こると期待しています。人間同士の思いやりの拡張、スキルの交換、世界の理解と創造様式の拡張が期待できます(図4)。また、情報媒体として、言語に加え脳のことばを使うことにより、知ることのできる世界、体験できる視点、そして関われる人、共有できる幸福・悩み・希望が拡張され、他者志向のイノベーションが次々と起こる社会が実現するでしょう。社会資本の観点からすると、これまでは産業や生活のインフラなど公共社会資本が中心でしたが、新しいサイバー世界では、人類の幸福のためのインフラが社会資本になると期待されます。ここで提案するサイバー世界を実現するためには、脳情報研究、そしてxR、ネットワークなど様々なICT関連分野との異分野融合研究を、NICT内はもちろん、NICT外とも広範囲に行うことが重要です。また、社会実装するためには多くの関連企業の協力が欠かせません。正に、オープンイノベーションが必須です。私たちは、研究開発に加え、オープンイノベーションシステムの構築も積極的に進めています。本原稿の作成に関して、NTTデータ経営研究所、東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター、大阪大学ELSIセンター、そしてCiNetの研究者の皆さんに協力いただきました。11NICT NEWS 2020 No.6
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