──新型コロナウイルスの影響で顕在化したICTの課題にはどのようなものがあるでしょうか。徳田 日本はデジタル環境の整備を進めてはいましたが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって、思いがけない課題がいくつも露呈してきました。例えば、保健所からの検査データがファックスで集計されていたり、医療のデジタル化の遅れから医療機関が様々な症例や治療法を検索したり、共有することがうまくいきませんでした。 また、社員の感染を防ぐために企業はテレワークを行うようになりましたが、ここにも課題がありました。大企業は以前から業務の電子化が進んでいたので、ある程度はテレワーク環境を実現できたのですが、中小企業では社内の文書をオンラインで見ることができないといったケースが出てきました。また押印のためだけに出社しなければならないという、古い習慣から来る課題もありました。 オンライン授業については、大学・高専・専門学校の実施率は平均約60%だったのに対して、公立の小中高では僅か5%。これは致命的な欠陥で、子どもたちの教育を受ける権利が失われてしまっているとさえ言えます。 行政の面でも課題がありました。特別定額給付金の支給では住民票とマイナンバーを管理しているシステムがうまく連携していなかったため、オンライン申請されたものをいったん紙にプリントアウトしてから照合するといったことが行われていました。──なぜこのような問題が起こったのでしょうか。徳田 社会全体において、デジタル化の遅れとICTリテラシーが不足していたからだと思います。今、小学校からプログラミングなどの情報科学の基礎的なリテラシー教育が始まっていますが、今後はより強力に様々な分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていく必要があるでしょう。■ICTの本質とは──NICTはICT分野で長年にわたる技術の蓄積と経験があります。ICTは本質的に社会にどのような貢献ができるものなのでしょうか。徳田 これからは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が融合し、IoTやAIといった技術によって、 2020年が始まって間もなく世界は未み曽ぞ有うの危機に見舞われた。新型コロナウイルスの世界的大流行だ。緊急事態宣言が発出されるなど生活は大きく変わらざるを得なかった。代表的なものが、自宅で仕事や学習を行うテレワークや遠隔授業への移行だ。しかし、この過程で多くの課題が見えてきた。これらの課題を救うものこそがICTのサービスや技術である。今回は、NICTの研究開発がどのようなアフターコロナ社会を実現するのかについて、徳田英幸理事長に話を聞いた。徳田 英幸(とくだ ひでゆき)情報通信研究機構 理事長1983年、大学院博士課程修了。その後、カーネギーメロン大学計算機科学科研究准教授を経て、1990年に慶應義塾大学兼任、1996年環境情報学部教授。慶應義塾大学常任理事、環境情報学部長、大学院政策・メディア研究科委員長等を歴任。主に、ユビキタスコンピューティングシステム、オペレーティングシステム、分散システム、サイバーフィジカルシステムに関する研究に従事。2017年に国立研究開発法人情報通信研究機構理事長に就任。現在、慶應義塾大学名誉教授、日本学術会議会員、重要生活機器連携セキュリティ協議会会長、情報処理学会フェロー、日本ソフトウェア科学会フェロー、IEEE東京支部長等を務める。ウイズコロナ・アフターコロナで注目されるNICTのICTテクノロジーコロナ禍に生かすNICTの研究・SEEDsHow NICT R&D Can Underpin COVID-19 Aected Society1NICT NEWS 2020 No.6
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