すべてのモノと情報が統合された社会になっていきます。このときに大切なのが、「人間中心・持続可能性・包摂性」という概念です。機械優先ではなくあくまでも人間優先の人間中心主義を貫き、持続可能性を担保し、全ての人が平等に利便性を享受できる社会です。このような社会をICTによって実現することで、人間は時空間の制約から解放され、身体という束縛からも解放されます。 NICTにはCiNet(脳情報通信融合研究センター)という研究センターがあり、ブレインマシーンインターフェイスの研究を行っています。この研究が実を結ぶと、将来は脳で考えただけで分身であるロボットが作業をやってくれるような社会になるでしょう。 ただ今のところ、実際の作業をやってくれる最後の部分のテクノロジーが弱いのです。情報のセンシング、入力、解析処理、それを基にした実空間でアクション(行動)という一連の流れを扱う技術はSPA(Sensing, Processing, and Actuation)モデルで整理できますが、最後のA(アクチュエーション)の部分が、アフターコロナ社会に向けて重要になってくるでしょう。■ウイズコロナ時代のためのNICTの持つ技術──ウイズコロナの技術としてNICTが持っているものは?徳田 例えば、深紫外LED技術があります。波長265 nmの深紫外線を出すLEDで、3 cm先から1秒間当てるだけで、新型コロナウイルスを不活性化できます。今、NICTでは出力500 mWという高出力なものも開発していますが、これをロボットに載せて、深夜に病院内を巡回させれば、LEDからのDUV(Deep Ultraviolet)光が届く場所では、ウイルスを不活性化することができます。 また、病室全体を8K映像で共有する技術も開発していて、既にいくつかの大学病院と連携して実証実験を行っています。地方の病院ではICU(集中治療室)ユニットが不足しているところもあり、ICUの病室の空間全体を高精細映像で伝えることで、専門医による遠隔治療が行えるようになります。 このほか、NICTが開発した多言語翻訳技術は、ワクチン開発を進めている製薬会社で活用されています。英国のアストラゼネカ社と連携して、治験申請に必要な膨大な量の英語の文書を日本語に翻訳させたところ、それまで4週間かかっていた翻訳作業が2週間でできるようになりました。これによって、ワクチン開発が速まる可能性があります。 さらに個人情報を守るために、データを暗号化したままでビッグデータ解析や深層学習が行えるプライバシー保護データ解析技術、6G以降の移動体通信システムを想定したテラヘルツ波による100 Gbpsから1Tbpsの超高速通信の技術、超臨場感通信を実現する3次元ホログラム技術などが開発中です。どれも、ウイズコロナ時代に有用な技術と言えるでしょう。■アフターコロナ時代の未来像と課題──アフターコロナではどんな社会になるとお考えでしょうか。徳田 アメリカにi4j(Innovation for Job)というNPOの団体があります。彼らは、みんながAIを使うようになると、競合他社も同じようにAIを使うようになり、差はほとんどなくなってしまうだろうと言っています。企業の価値は、そこで働いている人たちの価値の総和であるというのです。だからAIは、人々を社会から排除していくように使うべきではないと主張しています。人間中心主義とか包摂性のある社会とは正にこういうことだと思います。──社会を変えていくために必要な技術とはどういうものでしょうか?徳田 通常のテクノロジーイノベーションと同時に、テクノロジーシェーピングが大切です。テクノロジーシェーピングとは新しい技術を創造すると同時に社会的受容性を向上させていくことをいいます。これまでの研究者は、技術を開発することに100%の力を注いできました。しかし、いくらすごい技術でも社会に受け入れられないようなものではだめです。技術開発と同時に、テクノロジーシェーピングを進め、社会のルールや制度・古い利権構造、さらには人々の意識も変えていくようなソーシャルイノベーションも同時に進めなければなりません。コロナ禍に生かすNICTの研究・SEEDsHow NICT R&D Can Underpin COVID-19 Aected Societyウイズコロナ・アフターコロナで注目されるNICTのICTテクノロジーNICT NEWS 2020 No.62
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