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鳥澤 健太郎(とりさわ けんたろう)NICTフェロー/ユニバーサルコミュニケーション研究所データ駆動知能システム研究センターセンター長大学院中退後、東京大学大学院助手、北陸先端科学技術大学院大学助教授等を経て、2008年にNICTに入所。自然言語処理の研究に従事。日本学術振興会賞等受賞。奈良先端科学技術大学院大学客員教授。日本学術会議連携会員。博士(理学)。コロナ対策に向けたNICTの自然言語処理技術本語、英語等の「自然言語」を計算機で処理する自然言語処理はAIの一種です。NICTの自然言語処理は、単なる研究にとどまらず、社会変革を狙うものであり、一部は商用化されています。以下ではこうした技術のコロナ対策での活用可能性を紹介します。NICTでは、スマホ等に音声で日本語等を入力すると、他の言語への翻訳結果を音声で出力するVボイストラoiceTra等の音声翻訳技術や、特許文書等を翻訳するテキスト翻訳技術を研究開発してきました。コロナの感染拡大に伴って、国をまたがった医療機関間での情報共有や、コロナに関する膨大な論文が注目されていますが、問題となるのが翻訳です。英語に不慣れな医師や看護師が外国の医療関係者との会議をする際や外国語論文を読む際、機械翻訳を使えば効率よく知識を吸収でき、治療、感染対策が劇的に改善する可能性があります。一方、現在普及している音声翻訳技術は、ユーザがいったん話し終えないと翻訳が行われません。一方、NICTでは、テレビ会議等での活用を念頭に、途切れず話し続けても、並行して翻訳を行う同時通訳型の革新的翻訳技術を、2025年の実用レベル技術実現を目標に開発しています。また、論文翻訳や専門家間の同時通訳では、分野特有の言い回しを適切に翻訳することがマストです。NICTでは、翻訳バンクという取組で、企業等から提供された各分野の対訳データを用い、その分野に特化した高精度な機械翻訳を構築しています。現在も多数の製薬会社から対訳データの提供を受けており、こうしたデータによって医療関係者間の適切な同時通訳等も可能になります。こうした技術による迅速な国際連携で、より適切なパンデミック対応ができるでしょう。また、感染症蔓まん延えん時の自然災害は深刻な事態で、3密が生じやすい避難所での感染症蔓延は悪夢です。NICTでは連携組織と共に、スマホ上のチャットボットが被災者等と会話し、被災情報を効率よく収集する防災チャットボットSソクダOCDAを開発しています。このSOCDAを使い、被災者一人ひとりの健康状態や、避難所の状況を把握し、3密が起こりにくい避難所を推薦するといった、感染症に配慮した被災者支援が可能になります。今年度中に実証実験を実施予定です。さらに、今回のコロナでは、高齢者の重篤化や介護施設等でのクラスタが問題になりました。NICTでは、音声で高齢者と対話を行う対話システムMミクサスICSUS(図)を連携企業と共に開発中で、高齢者を対象とする実証実験も行ってきました。これは高齢者の健康状態等のチェックを自動的にきめ細かく行い、介護作業の負担軽減や品質向上につなげ、さらにはWeb等の情報を用いて高齢者と雑談を行なって、その社会的孤立を回避することが目的です。一方で、この対話システムで必要なチェック等を行えば、介護を担うケアマネジャー等と高齢者の直接の面談の頻度を抑え、感染リスク抑制が可能ですし、そもそも感染可能性を質問でチェックすることも可能です。また、MICSUSは、カメラ等で高齢者の状態をチェックする機能も持ち、発熱等の症状を高齢者が言わずとも検知して、医師等に伝えることもいずれ可能になるでしょう。日図 高齢者向けマルチモーダル音声対話システムMICSUS5NICT NEWS 2020 No.6

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