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和田 尚也(わだ なおや)未来ICT研究所 研究所長1996年郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。以来、フォトニック ネットワークや光伝送システムに関わる研究に従事。博士(工学)。新型コロナウイルス対策で見えた既存技術の問題と解決のための糸口OVID-19の状況下でICT技術が社会経済活動の維持に大きく貢献している一方で、現在の技術では、通信の容量・柔軟性・安定性・安全性等に多くの課題があることを露呈しました。テレワークやオンライン授業等の浸透で露呈した課題解決のため、現在NICTでは、新しいICT技術の研究開発を進めています(表)。Beyond 5G / 6Gネットワークでは、これまでと異なり、無線(電波)と有線(光)のシステムを融合させた、光・電波融合ネットワークが必要になります。光と数百ギガヘルツ電波を直接変換する技術を導入することで、無線区間において現在の100倍の大容量を実現できますが、無線区間のトラヒックが集中する光ファイバ網の超大容量化が必須となります。NICTは、信号の伝送路が1本の既存光ファイバと同じ外径で、複数の信号伝送路を実現するマルチコアファイバやマルチモードファイバを用いた空間多重光ファイバ通信技術により、アクセス網やコア網において、現在の百倍〜数千倍の超大容量ネットワークを実現します。さらに超多分岐技術や長距離化技術の導入を併せて行い、人口が集中する都市部であっても、十分な通信容量を利用できるようにします。またデバイスの超小型化とシンプルなシステム構成導入により、アンテナ数激増の課題を解決します。さらに、限られた物理層資源を最大限に活用するために、混雑する通信経路を避け、最適な通信品質のコンテンツ配信を可能にするICN/CCN技術や、異種アプリケーションからの要求に基づいて、自動でネットワーク資源調整を行うネットワーク構築自動化技術の導入により、ネットワークの柔軟性と安定性の課題を克服するプログラマブルネットワークを実現します。テレワークの拡大で、ネットワークを介しての機密性の非常に高い情報のやり取りも避けられなくなるため、ネットワークのセキュリティーは更に重要になります。量子暗号は(量子計算機を含む)あらゆる計算機で解読不可能であることを証明できる現在唯一の暗号方式です。この量子暗号を用いた秘匿性を限りなく高めたネットワーク技術により、ネットワーク安全性の課題を解決します。このように、テレワークにおける多くの課題を解決できたとしても、テレワークが不可能な業務も数多く残ることは、事実です。そこでは、安全なウイルスフリー環境を容易に作り出すことができる殺菌・滅菌・除菌技術が極めて重要になってきます。そのため非接触で殺菌が行える深紫外光による殺菌技術が大きな注目を浴びています。これまでの深紫外光源は、水銀ランプやガスランプ等で、サイズや消費電力が大きく高価で、短寿命、水銀を使っているなどの問題があります。深紫外LEDは、このような問題を克服し、容易にウイルスフリー環境を実現するための鍵となります。NICTが開発をリードする深紫外LEDは最も殺菌作用の強い265 nmの大出力深紫外光源を可能にし、かつ有害物質を用いない低環境負荷性を両立させる技術です。最先端ICT技術を通じて、withコロナ時代を人々が少しでも安全かつ快適に生活できるよう、NICTでは今後も研究開発を進めていきます。C表 問題解決の糸口となるICT技術課題克服するための技術(代表例)通信容量・Beyond 5G技術・空間多重光ファイバ通信技術柔軟性と安定性プログラマブルネットワーク技術安全性量子ネットワーク技術7NICT NEWS 2020 No.6

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