超高速ネットワークとエッジデバイスの時空間管理時間と空間の壁に挑む原 基揚(はら もとあき)主任研究員大学院博士課程修了後、株式会社富士通研究所に入社、東北大学大学院工学研究科准教授を経て、2016年にNICTに入所。半導体微細加工技術を応用したマイクロデバイスの開発に従事。博士(工学)。自動車やドローン、インフラ設備まで、あらゆる機器が協調し、我々の生活をアシストしながらスマート化してくれる社会*1(図1)。テクノロジーが追及する一つの理想像がここにあります。「原理は単純を極め、構造は複雑を極め、人は最も人らしく。」これは1985年に発刊されたアップルシードというSFコミックに出てくる未来都市を表現するフレーズです*2。このフレーズは我々が望むテクノロジーの方向性と符合します。スマートフォンやスマートスピーカの登場で、インターフェースはより感覚的な方向へ向かい、多くの機器類は、5Gにおいて、IoTの概念の下、高度に連携できるようになってきました。東京2020オリンピック開会式にて、多数のドローンが協調して夜空に描いた光のアートワークは、多くの人に鮮烈な印象を残しました*3。このようなドローンサイネージはGNSS衛星からの信号を援用して膨大な数の飛行ドローンを無線制御したものです。この技術は今後の進展が期待される無人工場や大規模な港湾管理、スカイカーシステムなど、高度な自律制御システムへとつながっていくことが予想されます。では、その過程はどのようなものとなるでしょうか?「人が人らしく」あるために、「構造(システム)の複雑化」と「原理の単純化」をいかに推進すべきでしょうか? ■ネットワークの高速化・低遅延化 —リアルタイムという時間の壁—ドローンサイネージからの展開を図2にまとめます。図2(b)では、監督者たちがネットワークを介して遠方にいることを想定しています。また、各機器にはカメラが搭載され、得られた画像は、トレーサビリティの確保のためにクラウドに保存されるとともに、ネットワークエッジにてAI処理(障害物や人影の推定)され、リアルタイムの自律的な安全確保に活用されます。このような応用では、クラウドネットワークに更なる高速化・低遅延化が求められ、これに対し、回線の光多重化とクラウド処理系の超高速化が原理的に最も単純な解(方向性)を与えます。回線の光化は、IOWN構想などが好例として挙げられ*4、また、クラウド処理系の超高速化に関しては、現在、最もダイナミックな研究分野の一つとなっています。クラウドネットワークにおいて処理される情報は膨大です。一方で、半導体チップの微細化による高速化は鈍化しており、熱管理の観点からも限界が見えつつあります。そのため、高速、かつ、エネルギー効率の良い新たな演算方式の登場が切望され、フォトニックコンピューティング*5や、量子コンピューティング*6は有望な候補の一つとなっています。半導体チップの高速化の恩恵を最も享受するのは、クラウドサービスを提供するプラットフォーマでしょう。実際、高性能半導体チップの開発主体は、Intelなどのファブを擁するチップメーカから、GoogleやAmazonなどプラットフォーマに移行する傾向が見られます。■ユーザデバイスの同定と把握 —位置空間情報の完全把握という壁—プラットフォーマによる高度なSoC(System on Chip)の開発は、かつてのメインフレームビジネスに類似します。それでは、クラウドネットワークの性能FEATUREBeyond 5G / 6Gホワイトペーパー特集White Paper on Beyond 5G and 6GNICT NEWS 2021 No.68
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