況と予測される気象に基づき、飛行の最適なスケジュールと経路を決定してドローンに指示を与える一方で、経路上の通信を安定的に確保するために地上系と衛星系の通信システムをシームレスに切り替える、という一連の制御が考えられます。そのためには、単に簡略化したモデルによるシミュレーションだけではなく、現実世界(フィジカル空間)をコンピュータ上に忠実に模擬した仮想世界(サイバー空間)において、起こり得る事象の分析と検証を行った上で、サイバー空間の情報に基づきフィジカル空間を駆動することが求められます。このようなサイバー空間とフィジカル空間が融合されたシステムをCyber Physical System (CPS) と呼び、Beyond 5Gのシステム構成において重要な概念となっています。■Beyond 5Gのシステム構成CPSを実現するBeyond 5Gのシステム構成を図1に示します。フィジカル空間では、従来の携帯電話用基地局だけでなく、ローカル5G、次世代無線LAN、専用通信システムなどの自営無線システムに加え、人工衛星やHAPSのような非地上系無線システムが統合して扱われます。先述のように、次世代光ネットワークやデータセンターがそれらのシステムを支え、お互いのリソースを柔軟に組み合わせることにより、アプリケーションに対してその要求や意図に応じた最適な通信環境を提供します。周波数は、5Gで現在使用されている28 GHzまでの周波数に加えて、100 GHz以上のテラヘルツ帯の利用技術が開拓され、多様な特徴を持つシステムを使い分けることができるようになります。サイバー空間では、図2に示すように、フィジカル空間から得たセンシング情報に基づき現実世界をリアルタイムかつ忠実に再現した空間や、過去から未来に時間を超えて高速に長期間の予測を行う空間、宇宙のように実際に訪問が困難な空間など、様々なサブ空間をコンピュータ上に模擬的に実現します。サイバー空間では、アバターや仮想現実(VR: Virtual Reality)技術を活用することにより、現実では実現不可能なシナリオの体験や困難な協調作業、コストが高く実証が困難な検証の反復実施などを行い、その結果に基づきフィジカル空間を駆動(アクチュエーション)します。サイバー空間とフィジカル空間の間のセンシングとアクチュエーションのループを機能させるために、サイバーフィジカル制御プレーンを定義します。これは、両空間にまたがるリソースや情報の制御を一体的に行う機能群です。イネーブラーは、サイバー空間とフィジカル空間をまたいでアプリケーションを実現する機能群であり、ミドルウェアとしてアプリケーションにAPI(Application Programming Interface)を提供する一方で、CPSには制御インターフェイスを提供します。イネーブラーの例として、アバターによる国際協調作業のアプリケーションでは、「アバター労働」イネーブラーを利用して、複数の利用者が臨場感のある作業空間を共有するため、AIによる動作予測や音声翻訳の機能をカスタマイズして提供しながら、サイバー空間には作業スペースを構築する、などの制御を行うことになるでしょう。このようにして実現されるBeyond 5Gのアプリケーションは、様々な物理的な制約から解放され、ますます増加する社会課題を解決していくことが期待されます。■今後の展望本稿は、2021年3月に公開したBeyond 5G / 6Gホワイトペーパー第1版に記載した内容に基づいて、社会インフラの変化やCPSの意義を紹介しながら、検討を続けているBeyond 5Gのシステム構成について説明しました。Beyond 5Gの実現に向けては、あらゆる分野のアプリケーションの実現につながることを念頭に置きながら、通信サービスを手掛けている企業や研究機関にとどまらず、分野が異なるステークホルダーも含めて共に議論をし、システム構成や利用される要素技術の具体化を図ることが重要です。NICTでは議論を更に本格的に進めていきますので、皆様との今後の議論を楽しみにしています。図2 時空を超えて多様な空間を模擬するサイバー空間アプリケーション イネーブラーフィジカル空間とサイバー空間をまたいでアプリケーションを実現する基盤サービス / 基盤機能サイバーフィジカル制御プレーン共有可能な計算資源・ストレージ・ホワイトボックス共有可能な計算資源・ストレージ・ホワイトボックスアプリケーションに応じてカスタマイズされた仮想空間アプリケーションに応じてカスタマイズされた仮想空間システム状態リソース管理・最適化制御オーケストレータアプリケーションの要件・意図通知フィジカル空間のデータサイバー空間のデータサイバーフィジカルシステム(CPS)データ収集分析フィジカル空間衛星系ネットワーク非静止衛星非地上系ネットワーク地上系モバイルネットワーク/Local 6G 地上系モバイルネットワーク/Local 6G HAPS海洋・被災地域海洋・被災地域テラヘルツ波テラヘルツ波Local 6GLocal 6Gマルチコア光ネットワーク(フロント/バックホール/コアネットワーク)静止衛星電波と光のハイブリッド通信フィジカル空間とサイバー空間の双方における時間と空間のリソース利活用人・モノの行動、電波環境 、ネットワーク状態などの状態把握センシングアクチュエーションサイバー空間とフィジカル空間の統合サイバー空間アプリケーションに応じて多様なサイバー空間が併存(例:Cybernetic Avatar Society、月面都市、時空を超えて、・・・)フィジカル空間と同期した時空間電波環境やネットワーク状態の再現人やモノの模擬過去の蓄積将来の予測図1 サイバーフィジカルシステム(CPS)を実現するBeyond 5Gのシステム構成5NICT NEWS 2021 No.6
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