です。我が国をはじめ多くの先進国では、少子高齢化が急速に進み、労働人口の減少による経済・社会の弱体化という危機に直面しています。しかし、アバターの活用で一人ひとりの労働生産性が向上すれば、たとえ労働人口が減少しても社会全体の維持・発展が見込めます。さらに、親の遠隔介護、子育てや地域活動を行いながらの遠隔就労等、人々のライフワークバランスの充実も期待できます。■サイバネティック・アバター社会実現のための研究開発それでは、サイバネティック・アバター社会を実現するためには、どのような技術の研究開発が必要になるのでしょうか。図2は、ユースケースとなるシステムとそれらを実現するための言語・非言語・脳情報などを活用した要素技術を示しています。その中でも特に以下の研究開発が重要と考え、NICTにおいてもその取組を進めています(図3)。(1)リアル3Dアバターの構築・制御技術現在、3D仮想空間内でCGキャラクタに乗り移ってゲーム感覚で交流を楽しむサービスが既に商用化されています。しかし、CGキャラクタでは、刻々と変化する視線、表情、ジェスチャ等が十分に伝わらないため、初対面での会話、人柄を見極めたい面談、駆け引きのあるビジネス交渉等、相手の心の機微を非言語情報から読み取る必要がある状況では、このようなサービスの利用は難しいと言わざるを得ません。それに対し、当研究グループでは、CGキャラクタではなく、相手のリアルな3D映像を奥行センサのデータから実時間で再構築して伝送し、対面対話に近いコミュニケーションを実空間で行えるMR(複合現実)テレプレゼンス技術を開発し、その効果を行動実験で実証しています。さらに現在、当研究グループでは、特殊なセンサを用いずにカメラ画像の情報だけからリアルな3Dアバターを構築し、微妙な表情や動作も的確に伝達し姿勢の制御も可能な新しい技術の開発を進めています。(2)多感覚情報のXRインタフェース技術私たちは、視覚だけでなく聴覚・触覚・嗅覚等の多感覚の情報を用いて、人や環境の実在を感じ取っています。よって、実空間と同等のクオリティで遠隔からの活動を行いたいのであれば、視覚以外の情報も効果的に伝える必要があります。例えば、ロボット等を用いた遠隔作業を円滑に行うためには、触覚情報のフィードバックは不可欠になります。当研究グループにおいても、視覚とともに触覚や聴覚の情報を効果的に統合して自然なインタラクションが行える技術の開発を進めています。(3)ヒトの知覚認知機能の解明と活用遠隔地の人や環境の情報を効率的かつ効果的に伝達するためには、ヒトの知覚認知機能を心理・行動・生体情報・脳情報等の解析により定量的に明らかにし、その知見を最大限に活用することも重要になります。例えば、情報の遅延やその変動に対するヒトの許容範囲を明らかにして効率的な情報伝送に役立てていくことや、遠隔コミュニケーションにおける人々の相互理解や一体感を促進する情報を特定しそれらを優先的に伝達する手法の開発等が期待されます。■今後の展望今後は、アバター技術のハード・ソフト開発や新たなサービス開拓に向けた産学官連携の推進とともに、アバターの利用による心身への負荷(違和感・疲労等)を避けるためのガイドライン策定や他人によるアバターの「なりすまし」を起こさせないための本人認証の仕組み作り等も進めていく必要があると考えます。図2 サイバネティック・アバターのユースケースとその実現に必要な要素技術図3 アバター技術のコアとなる研究開発とNICTにおける取組7NICT NEWS 2021 No.6
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