ハッブル宇宙望遠鏡による天王星自転周期の高精度測定

2025年4月8日

国立研究開発法人情報通信研究機構

仏パリ天文台のLaurent Lamy博士が率いる、国立研究開発法人情報通信研究機構、米アラバマ大学、スウェーデン王立工科大学、仏グルノーブル・アルプ大学などによる国際共同研究グループは、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた天王星オーロラの観測から、これまでの約1000倍の高精度で天王星の自転周期を導出することに成功しました。

背景

自転周期は惑星を特徴づける基本パラメータの一つであり、惑星上の場所の経度の特定に不可欠なものですが、天王星には地球のような地面がないため、自転周期の直接の把握は非常に困難です。これまでは、ボイジャー2号探査機による1986年の天王星接近時の観測をもとに求めた自転周期が知られてきました。しかし、その自転周期の精度では、地球の約半年で誤差が1自転に相当してしまい、すなわち、天王星の”ある場所”(例えば、磁石の極)がどこにあるのが分からなくなってしまうものでした。

経緯・結果・成果

極域でみられるオーロラ現象は、惑星の内部で作られる磁石の極(磁極)の周辺で見られます。自転軸が横倒しとなっている天王星(図1)では、磁極やオーロラの場所が、地球からは見えたり見えなくなったりします。
Laurent Lamy博士らは、ハッブル宇宙望遠鏡によって、地球からも天王星オーロラの画像の取得に成功し、20年以上に跨るハッブル宇宙望遠鏡によるオーロラ観測と解析を行ってきました(図2)。
太陽風変動が大きいときに天王星オーロラも増光する傾向がみられることから、情報通信研究機構による天王星位置における太陽風変動の推定結果も、オーロラ観測日時の決定に用いられてきました。
長期に渡る天王星オーロラの解析から、今回、自転周期を精度高く導出することができました。その精度は、今後40年ほど経っても、天王星の場所を特定できるというものです。本研究成果は、2025年4月7日に英国科学誌 Nature Astronomyに掲載されました。

図1. 天王星の自転軸と磁軸の位置関係の概観図
図2. 2022年10月10日にハッブル宇宙望遠鏡で観測された天王星オーロラ [Image Credit: ESA/Hubble, NASA, L. Lamy, L. Sromovsky]

今後の予定・展望など

天王星は自転軸が横倒しで磁極も自転軸から大きくずれているため、天王星オーロラは、地球や木星・土星のオーロラとは大きく異なる特徴を持ちます。この天王星オーロラや天王星環境の太陽風変動等の宇宙天気への応答は、非常にチャレンジングな興味深い課題です。今回の精度高い自転周期同定の成果は、オーロラや惑星周辺環境の今後の研究に加え、計画されている将来の天王星探査機の観測にも非常に重要なものです。

論文情報

掲載誌:
Nature Astronomy
論文名:
“A new rotation period and longitude system for Uranus” (天王星の新しい自転周期と経度系)
著者名:
L. Lamy 1, R. Prange 1, J. Berthier 1, C. Tao 2, T. Kim 3, L. Roth 4, M. Barthelemy 5 , J.-Y. Chaufray 6, A. Rymer 7, W. Dunn 8, A. Wibisono 8, H. Melin 9
著者所属:
1. フランス パリ天文台、2. 情報通信研究機構、3. 米国 アラバマ大学ハンツヴィル校、4. スウェーデン王立工科大学、5. フランス グルノーブル・アルプ大学、6. フランス 大気環境宇宙観測研究所、7. 米国 ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所、8. 英国 ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、9. 英国 ノーザンブリア大学
URL:
https://www.nature.com/articles/s41550-025-02492-z

関連発表

出典:
ESA/STSci プレスリリース(英語)
URL:
https://esahubble.org/news/heic2503/

問い合わせ先

国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター
宇宙環境研究室

垰 千尋